Fusion360 CAE熱解析での回路基板(FR-4)の熱伝導率を換算する計算について

last updated : 2023-01-18

AUTODESK Fusion 360 のCAE熱解析

Fusion 360 のCAEのひとつ「熱解析」では、「熱伝導」、「熱伝達」、「熱放射(輻射)」の各状態(図1)を表すために熱コンダクタンスなど各条件の設定が必要ですが、各材質の熱伝導率は材質の設定の中に予め設定されているので、対象部品に材質を設定していればその材質の熱伝導率が適用されています。ですので自分で材料の熱伝導率を設定(変更)する場合は、マテリアルの熱伝伝導率の設定を編集して変更します。回路基板については回路パターンの状態や厚みなどの条件でみかけの熱伝導率(等価熱伝導率)が変わりますが、Fusion 360 では「熱伝導率」としてしか設定できません。そこで、参考に私が使用している基板の熱伝導率をシミュレートする方法を以下に記載しましたので使えるようならばどうぞ。

図1. 熱の伝わり方

回路基板の熱伝導率

回路基板の小型化、高密度化による多層基板は、ガラスエポキシを基材としたFRー4が多く一般的に使用されています。熱解析を実施する際の基板の熱伝導率設定はFR-4の場合 材質の熱伝導率 0.3~0.5 (W/m・K)を設定しますが、実際には、回路パターンは銅であり熱伝導率は 398(W/m・K)と大きいため実際の熱の伝わり方をシミュレートするにはパターンの影響を考慮する必要があります。回路パターンの状態やパターンの厚み、スルーホールの状態等によって回路基板の場所により熱伝導率は違っています。実際の回路パターンや基板の積層までを精細にモデル化して解析するのが良いのかも知れませんが、モデルが複雑になればそれだけ計算の負荷が大きくなり現実的ではなくなりまし、Fusion360で考えた場合は現実的ではありません。したがって、熱解析としてはどれだけ実際の状態に近い簡易なモデル化ができるかがカギであり、次に記載するのは基板の状態の平均的な熱伝導率を基板全体に設定するものになります。

基板の等価熱伝導率の換算

Fusion 360では 回路基板をモデル化する場合、材質をFR-4で設定するのが一般的だと思います。FR-4自体の熱伝導率は 0.3 ~ 0.5 (W/m・K)ですので、基板上の熱伝導は熱伝導率が 398(W/m・K)と高い 銅パターンの状態が支配的になります。パターンは面方向にあるため、基板の面方向と厚み方向では熱伝導率も変わります。また、銅のパターンは配線でありもあり、放熱のための仕組みでもあり設計毎に様々な状態をとるため等価の熱伝導率は回路パターンの状態により変わることになります。以下に等価熱伝導率の換算式を説明します。

等価熱伝導率換算式

厚さ方向等価熱伝導率(K-normal)および面内方向熱伝導率(K-in-plane)として以下の計算式で算出します。

  • N=最大層数:基板のパターン層、絶縁層の合計層数(4層基板なら7)
  • k=層の熱伝導率:パターン層(銅 =398)、基材層(FR-4 =0.3~0.5)(W/m・K)
  • t=厚さ:パターン層、絶縁層それぞれの厚み(m)
  • C=金属含有率:パターン層の面内でのパターンの割合(%)
  • E=被覆率指数:面内熱伝導材料の基板内における銅の配置および濃度の影響を考慮するために使用する重み関数です。デフォルト値は 2 です。 1 は細長い格子またはグリッドに最適であり、2 はスポットまたはアイランドに適用可能です。

被覆率指数の説明:
XY平面にあるPCBを例にとります。X方向に走る平行な銅配線層が1つあります。配線の幅はすべて同じで、配線幅と同じ間隔で均一に配置されています。被覆率は50%となります。X方向の配線層の熱伝達率は、銅が基板全体を覆っていた場合の半分の値になります。X方向の実効被覆率指数は1と等しくなります。対照的に、Y方向の熱伝達はFR4層の平面内値のおよそ2倍になります。直列の抵抗はより高い値に支配されるためです。(銅とFR4の熱伝達率の差は3桁違います)。この場合被覆率指数は約4.5と等しくなります。実際のPCBではY方向の条件ほど悪くありません。通常、交差する配線やグランド面、ビア等の伝導経路が存在するためです。そのため、代表的な多層PCBでランダムな配線長、配線方向を持つ様々なケースで被覆率指数2を使った実験式を使ったいくつかの論文があります。従って、多層で配線方向がランダムな代表的基板については2を使うことを推奨します。規則的なグリッド、アレイに従った配線を持つ基板(メモリカード等)には1を使用します。

AUTODESK ヘルプより



等価熱伝導率換算例

FR-4を基材にした4層基板を例に等価熱伝導率の計算をしてみます。

図2.回路基板サンプル

図2 の回路基板をサンプルにします。基板の厚みは1.6 mm。表面層(表裏面)のパターン厚を70 μm。内層(2層)のパターン厚を35 μm。銅の熱伝導率を 398 W/m・k。FR-4の熱伝導率を 0.44 W/m・kで計算します。

計算結果は、面内方向等価熱伝導率が 15.89 W/m・K、厚さ方向等価熱伝導率が 0.51 W/m・K となります。

金属含有率の確認

回路基板上のパターンの割合を指します。私は、回路基板のパターン図を白と黒(パターン)の2値のビットマップに変換して基板全体のピクセル数に対して黒のピクセルの割合を計算に採用しています。ビットマップファイルのカウントをするフリーソフトがあるのでそちらを使用しています。Windows10対応ではないフリーソフトなのでここには詳細を載せませんが、他に良い方法があれば教えていただけるとうれしいです。

基板の熱伝導率による熱分布の違い

基板の等価熱伝導率の違いによる熱分布の状態を参考まで記載します。FR-4の基板上に同じサイズの部品を乗せて、片側を発熱量 0.5 Wに設定し熱解析した結果です。部品と基板の界面の熱コンダクタンスを6,000(W/m2・K)。部品や基板からの空気中への熱伝達を対流のみの 5 (W/m2・K) 。等価熱伝導率を 1、10、20、30 (W/m・K)に変えた時の熱分布の違いです。等価熱伝導率が大きくなればなる程、発熱する部品が周りの電子部品に与える影響が大きくなります。ただし、熱伝導率 10 (W/m・K) と 30 (W/m・K)で発熱部品の温度差は 3.91 ℃ で、熱を受ける部品の温度差は 1.53℃です。この差が影響するような解析なら回路基板をさらに正確にモデル化する必要がありますが、概ね通常の解析では回路基板の熱伝導率が10 (W/m・K)なのか15 (W/m・K)なのかは大きく問題にならないように思います。必要な精度が解析できる程度の等価熱伝導率を設定できれば問題ないということです。また、これは解析というよりパターン設計(放熱)の話になりますので参考までということで。



等価熱伝導率のCAEへの適用について

等価熱伝導率は基板全体を平均的な熱伝導率に置き換えるので、基板のパターンの分布のかたよりや部品の配置との関係で一概に正しい解析になるとは言い難いです。概ね基板の状態を表せていると思います。Fusion360の場合は厚み方向と面内方向で別々な熱伝導率を設定するこたができませんので、面内方向の等価熱伝導率では厚み方向の熱伝導に対して過剰になってしまいますが、実際は放熱が必要な部品にはスルーホールで熱パスを設定しますので、逆にスルーホールをモデリングした方が現実をよく表せると思います。また、伝熱に関しては、部品と基板の接触面の熱コンダクタンスの方が影響が大きいと考えられるのでFusion360での定常熱解析では等価熱伝導率を採用することで十分だと思います。

私個人的な範囲での経験の話ですので参考程度と考えて下さい。

参考リンク



Fusion 360 関連記事





Related posts

5 Thoughts to “Fusion360 CAE熱解析での回路基板(FR-4)の熱伝導率を換算する計算について”

  1. LouisFriend

    参考資料について質問いたします。
    添付されているpanasonicのホームページのリンクが変更されているようで、資料までたどり着けませんでした。
    差し支えなければ、参考資料の題名と著者名を教えていただきたいです。
    よろしくお願いいたします。

    1. こんにちは。コメントありがとうございます。ご指摘いただき感謝します。リンク先のアドレスを修正しましたので確認していただけますか。ご希望の情報であれば良いのですが。

  2. tadasuke

    コメント欄を開いていただきありがとうございます。

    「金属含有率の確認」の箇所で質問があります。
    パターン図をビットマップファイルに変換し、ピクセル数をカウントする方法を
    自分なりに調べてみたのですが、これといった方法が見つかりませんでした。
    差し支えなければ詳細をご教授いただけますでしょうか。

    1. 回答が遅れてすみません。
      一般的なパターンが黒、基板が白い状態で表示できることが前提ですが、
      画像としてキャプチャできればそのまま処理が可能です。キャプチャした画像を画像編集ソフトへ貼り付けて二値化処理したもの
      のヒストグラムを表示できるソフトであればピクセル数を確認することができると思います。
      私はフリーのソフトを使用しています。
      GIMP や Imagej どちらでも二値化処理してヒストグラムで各ピクセル数の確認ができます。

      どちらもフリーソフトですのでダウンロードなど取り扱いは自己責任でご注意をお願いします。

      1. tadasuke

        ありがとうございました。
        参考にさせていただきます。

Leave a Comment