last updated : 2024-10-27
2019年まで、私は車載カーオーディオの生産現場に身を置き、生産技術で働いていました。製品の立ち上げから量産に至るまで、品質と効率のバランスを取りながら、チームと共に多くの課題を乗り越えてきた経験は、今の私の強みとなっています。特に、問題が発生した際の素早い判断や、製品化プロセス全体の流れを俯瞰する力を培いました。
2020年、私は新たな挑戦として、自ら選んだわけではありませんが、衛星搭載機器の開発に身を投じました。それは、地上製品とは全く異なる世界であり、より厳格な精度や信頼性が求められる領域です。BBM(Breadboard Model)やEM(Engineering Model)を使った評価を通じて設計の完成度を高める一方で、私の経験を活かしながらも、さらなる成長を感じる毎日です。特に、設計信頼性の評価において、次のような課題と向き合っています。
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複合環境での設計マージンの見直し
宇宙環境では、温度、振動、放射線など多岐にわたる負荷条件が同時に影響を及ぼします。それぞれの負荷条件のマージンだけでなく、条件間の相互作用も評価する必要があります。温度変化が部品の振動耐性に影響を与えるようなケースを見逃さないことが重要です。 -
供試体の代表性と製造ばらつきの考慮
BBMやEMモデルが量産品と異なるプロセスで製造されることによる差異も、評価の精度に影響します。製造ばらつきの影響を理解し、モンテカルロシミュレーションを用いることで、設計マージンを適切に確保しています。 -
ストレスマージンの最適化とAIの活用
宇宙機設計では、部品に余裕を持たせた定格(derating)基準を使いますが、その余裕が最適かどうかの再評価も重要です。AIを活用した寿命予測や故障予測の技術を取り入れることで、より精度の高いストレスマージンの設定を進めています。 -
評価フェーズ間のデータフィードバックの徹底
BBMやEMの試験結果をFM(Flight Model)や次世代製品にフィードバックする仕組みを整えることで、設計の信頼性を着実に向上させます。モデル評価のデータを一元管理し、次のフェーズに活かすことが不可欠です。 -
不確実性を考慮したリスクベースの設計マージン
宇宙環境では、スペースデブリや太陽フレアなど、想定外の要因が性能に影響を与えます。これらの不確実性も織り込み、リスクに基づいたマージンの設定を進めることで、設計の強靭性を高めています。
これらの取り組みを通じて、ただ設計試験の合否を確認するだけでなく、実運用と試験モデルのギャップを埋め、品質と信頼性の向上を目指しています。製造現場で培った経験は、衛星コンポーネントの開発においても非常に有効であり、過去のノウハウを未来の挑戦に結びつけることで、日本の宇宙産業の発展に貢献できるという手応えを感じています。
この新たな挑戦を通じ、私は自分の成長を実感し続けています。製品を形にする喜びは、地上の製品も宇宙のコンポーネントも変わりませんが、その奥深さは一層増しています。そして今、これまでの経験と新たな知見を融合させ、次のステージへ向かう準備ができています。