last updated : 2023-02-06
自動車の室内のような狭い環境では、呼吸による二酸化炭素濃度への影響は大きいと思いますよね。実際、車室内ではどの程度の二酸化炭素濃度になっているのかを実車を使って実験したデータがJAFから公開されています。
■車室内の二酸化炭素濃度の状況
JAFの試験は、春である4月3日に東京近郊を同じ車種(ミニバン)2台にそれぞれ4人乗車した状態で、内気循環と外気導入に設定して走行した時の車室内の二酸化炭素濃度と花粉の変化を計測したものです。試験の結果は次の通りです。
高速道路
高速道路では、内気循環で走行した車の二酸化炭素濃度が最大で4,250ppmとなった。また、外気導入で走行した車においては、トンネル内で走行していると、排ガスの影響もあり一時的にCO₂やCOの数値が高くなることもあった。
郊外・山道
郊外・山道では、外気導入で走行した車のCO₂濃度は1000ppm以下で推移しているのに対して、 内気循環で走行した車のCO₂濃度が60分後最大で4,730ppmとなっています。
市街地
市街地では、 外気導入で走行した車のCO₂濃度は1000ppmから1300ppmの範囲で推移している。内気循環で走行した車のCO₂濃度が60分後最大で6,770ppmとなり、外気と比べて約5.5倍の数値となった。
自動車室内の換気量は車にもよりますが、外気導入時で 130 m3/h弱で、対して内気循環時では 10~12 m3/h程度になるようです。車室内の CO₂濃度 を 1,000ppm以下に維持するための必要換気量は、ー人当たり 26 m3/h。 これに対し、内気循環時では10~12m3/h いう 結果になり、内気循環モー ドで走行している車室内では1,000 ppm を超える計算になり、実車の試験結果と一致しています。
車室内の花粉の量
花粉の量については車内にプレパラートを置き付着した花粉の量を調べています。 試験の結果では、花粉の量については花粉をわずかな量しか確認できなかったようです。現在のエアコンフィルターはある程度花粉を除去できるため、外気導入でも花粉を心配する必要はあまりなく、衣類に付着した花粉や乗降時に車内に侵入させた花粉を除去する方が有効だと思われます。
出典:JAFユーザーテスト「「内気循環」と「外気導入」どちらがいいの? 走行した際の車内環境の違いについて検証」
■二酸化炭素が及ぼす悪影響
建築物環境衛生管理基準では換気される建物内での二酸化炭素濃度は1,000ppm以下に規定されています。
二酸化炭素は大気中に普通に存在する物質で、普段、郊外などの屋外では 二酸化炭素の濃度は350ppm(0.035%)程度で、換気がされている室内でも 1,000ppm(0.1ppm)以下でその有毒性が問題になることはまずなく、健康に有害であるともみなされていません。しかし、大気中の二酸化炭素濃度が高くなると危険です。二酸化炭素濃度が3~4%(30,000ppm~40,000ppm)を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7%(70,000ppm)を超えると数分で意識を失います(=CO2ナルコーシス)。また、この状態が長く続くと麻酔作用による呼吸中枢の抑制のため呼吸が停止し、死に至る恐れもあります(=二酸化炭素中毒)。
空気中のCO2濃度 | 有害ガスが人体に作用する時間 |
250-350ppm | 大気中における通常濃度 |
250-1000ppm | 換気が十分実施されている屋内の通常数値 |
2000-5000ppm | 換気の悪い部屋 頭痛、眠気、倦怠感、注意力散漫、心拍数の増加、吐き気の発生 |
5,000ppm以上 | 作業場所としての限界値(8時間-TWA) |
>40,000ppm以上 | 酸素障害誘発、脳へのダメージによる昏睡、最悪死に至る |
車室内の二酸化炭素濃度も、十分に換気した状態では 1,000ppm以下です。実車試験の結果の通りで、「内気循環」では換気が不十分で車室内の二酸化炭素濃度が上昇して一時間程度で5,000ppm(0.5%)に達してしまうこともあります。
■二酸化炭素濃度は0.2%(2,000ppm)以下を保ちたい
車室内の二酸化炭素濃度も、十分に換気した状態では 1,000ppm以下です。実車試験の結果の通りで、「内気循環」では換気が不十分で車室内の二酸化炭素濃度が上昇してしまいます。二酸化炭素濃度が2,500ppm(0.25%)を超えると、注意力の低下や判断の誤り、眠気が発生すると言われていますので、運転中の車室内の二酸化炭素濃度はできるだけ2,000ppm以下を維持したいところです。(※2,500ppmを超えるとすぐに眠気がくるわけではありませんが、注意力や判断力が低下することはできるだけ避けたいため) その為には、「内気循環」の状態ではなく「外気導入」の状態を基本としておかなければならないことになります。(※実験結果はミニバンで4名乗車の場合)
ただし、「外気導入」では、排気ガスなどで汚染された大気の場合、車室内が汚染されてしまう懸念があるので「内気循環」を選択する人も多いと思います。ですので、次に「外気導入」での車室内の汚染について考えてみます。
■外気導入での車室内の汚染
二酸化酸素濃度を中心に考えると、外気導入が有効であることはわかりましたが、外気による車室内の汚染に対しては、外気導入はどの程度の影響があるでしょうか。実際、外気導入で走行していると、前車の排気ガスのにおいや外気のにおいを感じることがあります。これはある程度エアコンフィルターで除去はしているものの、完全ではないという事でしょうか。エアコンフィルターも多くの種類が販売されていますので多少機能の高いものを使うなどの方法もあるかもしれませんが、完全に除去はできないでしょうから、その場合は内気循環に切り替えるのが良いと思います。
■車の換気、フィルターの性能
車の換気
具体的には、3 人乗車時に時速40㎞で走行している状況下で、エアコンを外気導入モードに設定し、窓を開閉しながらエアコンを通常レベル(最大風量の半分)と、最大レベルで作動させた場合の換気性能や飛沫飛散の様子をシミュレーションしています。
結果は、時速40kmで走行中、エアコンを通常レベルにして窓を閉めきった場合、実換気量は1 時間当たり177㎥。シミュレーションに用いられたタクシーの車内の総体積は4.2㎥なので、1 時間で車内の空気が40回程度入れ替わった計算です。つまり、この条件では約1 分半で車内の空気をリフレッシュすることができるわけです。
この研究では、窓ガラスの開閉についてもレポートされていて、後席左の窓を5cm開けた場合の実換気量は1 時間当たり223㎥。すべての窓を閉めて走行した場合に比べて25%向上しているものの、上乗せ効果は相対的に少ない結果となっています。また、後席左に加え、運転席の窓を5cm開けても実換気量は増えないことが判明しています。
一方で窓を閉めたままエアコンの風量を最大に引き上げた場合は、実換気量が通常レベルの2 倍近くに増えることが検証されました。
これは、タクシーでのシミュレーション結果ですが、概ね、車室内の換気は、 「エアコン風量に余裕がある場合は、窓を開けるよりエアコン風量を増やした方が効果的である」 と言えるようです。
エアコンフィルターの性能
外気導入モードで走行すると、新鮮な空気とともにチリ、ホコリ、花粉、排ガス臭などが車内に入り込むのではないかと危惧する方もいるでしょう。しかし、現在は大半のクルマにエアコンフィルターが装備されているので、基本的には心配はいらないようです。プレミアムタイプの高性能エアコンフィルターは、優れた脱臭性能や除塵性能、抗菌・防カビ、抗アレルゲンなどの付加価値を備えているので、推奨の1年で1度エアコンフィルターを新しいものに交換するなど、メンテナンスで環境が維持できると思います。
※エアコンフィルター:(参考)デンソークリーンエアフィルター ベーシックタイプ(¥3,900)/プレミアムタイプ(¥6,300)交換費用込み参考
ベーシックタイプの特徴と5大効果
- 細かい粉塵、チリ、ホコリ、花粉などをしっかりブロックする高い除塵効果
- 抗ウィルス剤を採用しウィルスの活動を抑制する高い抗ウィルス効果
- フィルターに付着した菌やカビの発生を抑制する抗菌、防カビ効果
- 気になる排ガス臭を吸い取る脱臭効果
- 高い除塵効果と脱臭効果を持ちながらも安定してエアコンの風量を維持する効果
プレミアムタイプはさらに3つの機能を追加
- フィルターで補足したスギ花粉やダニの死骸に含まれるアレル物質の活動を抑制
- フィルターからビタミンCが放出され肌にうるおいを与えます
- 代表的なペット臭のニオイ(アンモニア臭)をカット
「内気循環」と「外気導入」のまとめ
交通環境など状況に応じて、内気循環と外気導入を切り替えると良いのですが、東北大学大学院医工学教授の永富良一氏は「いくつかの研究報告によるとCO₂の濃度が3,000ppmを超えると、疲労感の増加や注意力の低下、さらに、眠気や頭痛を訴える人が増加します。短時間では問題がないという結果もあるので一概には言えませんが、CO₂が増えるほど影響が大きくなるのは明らかなので、運転中はできるだけ外気導入にするか、最低でも1時間に1回は換気するといいでしょう。」といわれているようです。試験の結果からは、外気導入を中心にした運用が良い結果になっています。それで外気の影響が気になるのであれば、トンネル内の走行や前方を走行する車の排ガスなどが気になるときは内気循環に切り替えるようにする、などの運用が良いと思いわれます。
欧州車には、内気循環に固定できない(内気循環を選択しても自動的に外気循環に切り替わる)車種もあるようです。車種や運転する地域環境の影響が大きいですので、一概に明確な基準は設定できないと思いますが、内気循環中心の運用では、必ず二酸化炭素濃度の上昇が発生しますので、できるだけこまめに換気をするか、外気導入中心の運用にすることが、注意力の低下、眠気などには有効であることは間違いないと思います。
また、最近では二酸化炭素濃度を測定できる計測器が多く出回っていますので、車室内の二酸化炭素濃度をモニターして換気するということも可能でしょう。ただし、測定器の設置場所により、測定結果が大きく違う事は頭に入れておいた方が良いかもしれません。
参考資料:
■屋内の二酸化炭素濃度の上昇は意思決定のパフォーマンスを損なう
■CO2濃度変化及び温度環境が作業性と生理心理量に及ぼす影響(pdf)
■自動車車室内の空気質の知覚に関する基礎的検討(pdf)
■スパコン富岳を活用したタクシーの車内換気等シミュレーション(pdf)
■室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策(pdf)